万華鏡三次

novel.syosetu.org/114674/ の三次創作的リメイクです

序章 形而上の飢餓


花一匁という言葉もあるが、3.75gの見えない何かを誰もが常に気に掛ける。その身の軽さに、男アラン・リンドバーグは辟易しきっていた。「何のために生き、死ぬのか」その問いに答えを出すことは自分には出来ない。生命の価値。自分が持っていて、且つ手放す気のないものに値段はつけられない。手放して初めて彼らはこぞって三途の川の渡し賃すらその代金と代えようとするだろう。

「是非教えてくれないか。いくら出す。」

森の奥深く、人気もない中。死体の山に話しかけるのも別段空しくは感じない。狩り残し、起き上がって向かってくる連中もここには少なくないからだ。もっとも、会話ができる知性も売りに出してしまったように見えるものばかりだが。

「聞かせろ、それは命か?」

放った右の拳にさほど力は込められていない。故に亡者は無警戒に突っ込み、そして綺麗に塵となって霧散した。両の拳に刻まれた聖刻。痛みを伴った儀式で手に入れただけあって、その浄化の法に抗う力は死人にはない。事実、彼はその拳を気に入っている。死者と生者を分ける絶対。これを手に入れる為だけに死霊魔術に対抗する封印指定執行者になった。現に死を認めない悪足掻きに傾倒する魔術師を彼は好かない。

この軽さは、どうすれば飛んでいかないものか。この身体と魂を繋げる紐は、どうすれば強く太く結べるものだろう。恐怖とまではいかないにしろ、それが出来ないもどかしさが徐々に身体を支配していく。仕事の後はいつもこうだ。突然、馬鹿馬鹿しくなって自嘲気味につい、零す。

「実は私は、死にたがっているのか?」

【愚か者め】

心臓に至るまでの皮膚、筋肉、骨の全てを剥がされ剝き出しにするような声が響いた次の瞬間、彼の意識は急速に明滅し、そしてそれはこれから永い暗黒へ彼を連れ去るような予感を生んだ。

「死ぬか、なるほどあっけない。」

【未だ早い 異教の徒よ 我が後に在りし救えぬ狂信と共に学べ】

最後の景色は静かに燃える1対の青い炎とそれを眼に灯す頭蓋、それに巨大な――

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「信仰が為、幽谷の淵より死を持って参った。サーヴァント、アサシン。ハサン・サッバーハである。」

先に見た巨大さは見る影もなく、まるで少女のような声をしたその小柄の剣士が、しかし圧倒的な死の気を纏い、意識も朦朧としたままの彼に語り掛けるのだった。

サーヴァント アサシン ハサン・サッバーハ(?)
マスター        アラン・リンドバーグ
     契約成立